[ブランスリーってどんな雑誌?] [ブランスリーネット]
月刊ブランスリーの記事をちょっとだけお見せします。
ブランスリー電脳ちょっとだけ版
パン作りは自己実現の手段でもあった [2011年5月号 一粒の麦から(連載=本行恵子)]

アマチュアとしてパンを焼いていた時代に撮影用として作ったパンの数々
心に残るパン

 今まで食べたパンの中で、一番心に残っているのはどんなパンでしょう。
 ある人は学校給食のコッペパン、部活の帰りに食べたカレーパン、あるいはパリで食べたバゲット、ミュンヘンのレストランで出たカイザーゼンメルなど・・・・。  生まれ育った時代やそれぞれが体験してきたことによって、パンにまつわる様々なシーンを思い浮かべることができます。そのパンは必ずしも世界一美味しいものではないかもしれませんが、自分にとっては忘れることのない素敵な思い出を心に残してくれます。
 私の人生の中で思い出として残っているたくさんのパンの中から、もう二度と食べることができないものをご紹介しましょう。ひとつは世田谷の豪徳寺に住んでいた6歳の頃、自転車に木箱を乗せたおじさんが「中村屋のげんこつパンはいかがですか」といいながら売り歩いていた幻のげんこつパンです。母親にねだっておやつ代わりに食べたその味は、今考えるとフランスで食べたピストレに似た素朴でたいへん味わいのあるパンでした。小麦粉の焼けた香ばしい匂いがして、噛めば噛むほど口の中で味が広がります。新宿の中村屋本店から豪徳寺まで、自転車で売り歩いていたのでしょうか。それとも中村屋の看板を掲げる店が近くにあったのでしょうか。今でもそれは謎です。
 そして次に登場するのは、朝食に登場した母親が焼いてくれた食パン。昭和40年頃の一般家庭の台所には、オーブンなどなかった時代です。母がおやつに作るマドレーヌやパンは、宣教師から教えられたレシピを再現したもの。テレビで放映されていたアメリカのホームドラマに登場するような母親の姿に、ちょっぴり憧れを抱いた頃でもありました。当時オーブンの代わりに使っていたのは、最近使いやす...
(月刊ブランスリー2011年5月号へ続く)

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